著者
野村 幸子 河上 智香 長谷 典子 藤原 千恵子
出版者
県立広島大学
雑誌
人間と科学 : 県立広島大学保健福祉学部誌 (ISSN:13463217)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.169-180, 2007-03
被引用文献数
2

本研究の目的は,入学したばかりで小児看護学受講前の学生は,子どもとの接触体験をどの程度持っているのか,またどのような子どもイメージを持っているのか,子どもとの接触体験は,イメージの形成にどのように影響するのかを明らかにすることであった。対象者は,研究の目的に同意が得られた2大学の1年生143名である。結果は,接触体験で最も多い項目は,「赤ちゃんを抱く」や「子どもとの遊び相手」で世話に関する体験は少なかった。接触体験やきょうだい数が多いほど,子どもの『行動特性』からくるイメージは肯定的となっていた。他のイメージの側面には影響がみられなかった。また接触体験の多さは,子どもへの関心とも関連がなかった。むしろ接触体験が多いと苦手意識になることも示唆された。学生は,子どもへの関心は高いが,そのイメージは,子どもとの浅い関わりや外観から得られるイメージであることがわかった。
著者
西上 忠臣 近藤 敏 北川 美智子
出版者
県立広島大学
雑誌
人間と科学 : 県立広島大学保健福祉学部誌 (ISSN:13463217)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, 2007-03

我々は,広島県三原市内の町内会と連携し高齢者の健康づくりを目的とした作業療法プログラムを行ってきたので効果と本学の連携について報告する。プログラムの参加者は30名(73.2±6.3歳,男性18名,女性12名),介入期間は平成17年7月28日〜12月8日,頻度は2週間に1回,全11回実施した。効果判定には,作業遂行能力を評価するカナダ作業遂行測定(COPM ; Canadian Occupational Performance Measure)と主観的健康観を測定するSF-36を用いた。プログラム終了後に,COPMの遂行度が有意に高く(t=-2.21,p=0.03),SF-36では社会生活機能が有意に高くなっていた(t=-0.61,p=0.02)。今回の作業療法プログラムのノウハウを活かし,地域に還元するため,本年度は三原キャンパス地域連携センターの事業として,学生のボランティアを募り,三原地域連携推進協議会,三原市社会福祉協議会との連携のもとで地域の「いきいきサロン」を支援している。学生という循環型の資源を生かして,地域と本学との交流が学生により行われ,まち作りの役割を担っていくシステム作りをすすめている。
著者
勝見 吉彰
出版者
県立広島大学
雑誌
人間と科学 : 県立広島大学保健福祉学部誌 (ISSN:13463217)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.129-136, 2014-03

ステップファミリーでの生活経験のある青年期女性2名との面接結果を提示し,ステップファミリーにおける親子関係のあり方について,子どもの視点からの検討を行った。提示された2事例では,再婚により新しい関係が始まった時点から,継親との関係は対照的に展開していった。1例目は継父との関係を築くことには消極的で,継父を" 単なる同居人" としか見ていないこと,2例目では継父との関係は初めから肯定的であり,自分の親として認知していることが明らかとなった。いずれの事例においても別れた実親への思いが整理されないままであり,子どもの心の成長という点から,別れた実親をめぐる体験についても家族間で整理される必要性が検討された。親の再婚後に生ずる同居する親との関係の変化に注目することの重要性が指摘された。資料
著者
大島 埴生 沖田 一彦
出版者
県立広島大学
雑誌
人間と科学 : 県立広島大学保健福祉学部誌 (ISSN:13463217)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.35-42, 2019-03

患者-理学療法士(PT)認識の齟齬がどのような要素で,なぜ起こるのかをあきらかにするため,両者にインタビュー実施し,その内容を質的に分析した。対象は回復期リハビリテーション病棟に入院している脳卒中片麻痺者4名とその担当PTとした。半構造化インタビューを入院から一ヶ月毎に縦断的に計3回実施した。患者とPTの齟齬は主に[身体性(embodiment)]と[生活(life)]において生じていた。[身体性]については〈身体の認識〉と〈良くなるという実感〉の相違により,[生活]については〈リスク認知〉と〈生活についての合理的判断〉の相違から構成されていた。そして,患者はインタビュー初期の頃は,主に[身体性]について語り,時間とともに徐々に[生活]に語りの軸が移っていく傾向にあった。これらの齟齬は[体験の共有不可能性]に由来していた。PTには,認識の齟齬を自覚し,患者の認識も体験に基づくものであると認め,相対的に捉える姿勢が求められる。原著
著者
横須賀 俊司
出版者
県立広島大学
雑誌
人間と科学 : 県立広島大学保健福祉学部誌 (ISSN:13463217)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.19-31, 2016-03

日本の自立生活運動は,1970 年代に展開されていた障害者運動が80 年代にアメリカの自立生活運動を受容することで発展していったとされる。しかし,1970 年代から1980 年代に向けて,どのような移行があったのかは明らかではない。アメリカ自立生活運動の成果の一つはアテンダントサービスを定着させたことである。したがって,どのような過程を経て,アテンダントサービスが定着していったのかを記述,考察することで,どのようにアメリカ自立生活運動が受容されていったのかを明らかにすることができる。その際,「第9 回車いす市民全国集会・兵庫」を事例にした。この事例を選んだ理由は,アテンダントサービスを実際に導入していったということによる。結論としては,自立生活運動の理念や思想の普及が必ずしも要件になっていないことが明らかになる。原著
著者
土居 紀子 津森 登志子
出版者
県立広島大学
雑誌
人間と科学 : 県立広島大学保健福祉学部誌 (ISSN:13463217)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.99-106, 2018-03

本研究は助産師の分娩介助技術について視線計測を行い,分娩介助技術を客観的データで表現できるか検討する目的で行った。分娩介助映像を組み込んだ視線解析装置を用いて,分娩介助中の助産師の注視場所,注視時間,視線軌跡等を計測し,それらが分娩進行に伴いどのように変化するかを分析した。その結果,助産師は会陰保護時に児頭と膣口背側縁を含む領域への注視に多くの時間を費やしていることが初めて明らかになった。さらに,分娩進行に伴って助産師の見る領域や見方が有意に異なっていた。これらの結果を助産師へのインタビュー内容等と照らし合わせることにより,分娩介助中の視線データは助産師のアセスメントを反映する可能性が示唆された。今後データを蓄積し,さらに解析を深めることにより,視線データを熟練助産師の技術の可視化やそれを利用した助産教育に活用しうる可能性が期待される。This study aimed to evaluate the delivery skills of midwives through gaze-tracking measurements and to determine whether delivery skills could be expressed using objective data. Using a gaze analysis device incorporated into delivery video equipment, we recorded eye fixation locations, duration of gaze, and scanpaths in midwives during deliveries and analyzed how these changed as delivery progressed. The results clearly showed that during perineal protection, midwives spend much time focusing on the region that includes the baby's head and the posterior border of the vaginal orifice. Furthermore, as delivery progressed, the regions on which the midwives focused and the viewing angles changed significantly. This suggests that gaze-tracking data from deliveries could be incorporated into midwife assessment by cross-checking the results with the content of interviews with midwives. The accumulated gaze-tracking data and more detailed analysis can be used to evaluate the skills of experienced midwives. In addition, the data can be utilized in midwife training.資料
著者
安武 繁 蔵本 美代子 松浦 幸重 森岡 久美子 平井 ひとみ 武田 由美子 桐山 美紀子
出版者
県立広島大学
雑誌
人間と科学 : 県立広島大学保健福祉学部誌 (ISSN:13463217)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.83-90, 2006-03

近年,10代の性感染症や人工妊娠中絶の増加が思春期保健の緊急課題となっている。そこで,学校保健と地域保健が連携した「生と性の健康教育」推進システムを構築した。まず,学校を対象として「生と性の健康教育」に関する実態調査を行い,関係機関から成る検討委員会を開催した。次に,保健所管内3地域で年齢段階に応じた「生と性の健康教育」のモデル事業を実施した。尾道地域では,保育所で保育士による健康教育と保護者との座談会を行った。三原・世羅地域では,小学校で養護教諭による健康教育や,高等学校で大学生のピアエデュケーションの手法による健康教育を行った。このようなモデル事業の成果をもとに,効果的な健康教育を推進するためのマニュアルを作成し,関係機関に配布した。「生と性の健康教育」を推進するためには,学校保健と地域保健が連携し,ライフサイクルの発達段階に応じた教育内容を工夫することが重要であり,さらに関係機関が協働し,健康教育の企画・実施・評価機能を持つことが必要である。
著者
山本 映子 北川 早苗
出版者
県立広島大学
雑誌
人間と科学 : 県立広島大学保健福祉学部誌 (ISSN:13463217)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.111-123, 2007-03

本研究は,理由が判明しないまま不登校を繰り返す小学生の心の理解に,児童に関わる重要な非専門家も加わるコミュニティ援助の具体手段の中で宿題コラージュ法・かばん登校がもたらした効果を検討し,不登校支援に示唆を得ることを目的とした。小学校1年次より,毎年不登校を繰り返し,4年生の夏休み明けから不登校となった男児のコラージュ作品を分析し,「コラージュ法による攻撃性の発見」で得られた特徴が全て含まれていることが判明した。しかし,攻撃性の他に,対人恐怖,自我同一性の問題などが男児の不登校という現象の深奥に秘められていることも示唆された。コミュニティ援助という臨床心理学的対応の結果として,不登校は一応の解決に至った。コミュニテイィ援助にコラージュ制作という専門技法を用いることが,不登校児童への対応の1つの可能性として,活かしていくことが考えられる。
著者
山本 映子 野村 幸子 中村 百合子 北川 明 竹下 比登美 北川 早苗 近喰 ふじ子
出版者
県立広島大学
雑誌
人間と科学 : 県立広島大学保健福祉学部誌 (ISSN:13463217)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.45-56, 2006-03

近年,思春期の児童生徒による他者への攻撃性は,いじめや暴力,稀には殺人といった形で表出し,大きな社会問題となっている。本研究は,県内の公立小・中学校3校の協力を得て,小学5・6年生及び中学2年生の計452名を対象として,子どもの持つ攻撃性を早期に発見し,行動化する前に予防するための対応策を探索することを目的とした調査報告である。方法として,彼らの心身の健康状態と心を理解することが重要と考え,健康調査と攻撃性質問紙,心理テスト(エゴグラム)及び自己投影法であるコラージュ法を用いた。攻撃性については表出性,不表出性攻撃性をコラージュ作品との関連でみた。結果は,思春期の特性や集団力動など作品への影響因子が推測され,必ずしも関連しなかったが,攻撃的アイテムを示唆する傾向が得られた。コラージュ制作後の心身健康状態では,症状個数は有意に減少し,精神面では肯定的変化を得た。コラージュの自己治癒力,カタルシス効果が考えられ,攻撃性予防対策に応用の可能性が示唆された。